トップ > お知らせ一覧 > 「医者いらず健康長寿処方箋」(31)

医者いらず健康長寿処方箋(31)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「ハイヒールと鍼灸マッサージ」

 先日、「日本ハイヒール協会が日本女性にハイヒールを履くように強制している」との海外メディア報道で非難が集中している。「ハイヒールを美しく履きこなすことで日本人女性にもっと自信を持たせたい」という協会の活動目的が性差別的で時代に逆行しているという。女性誌やテレビ番組で著名なマダム由美子氏が代表を務める日本ハイヒール協会は、女性がエレガントになるための活動としてファッションモデルにウォーキング指導などを行っている。公式ウェブサイトには、「日本人女性もハイヒールをステキに履きこなし、美しく生き生きとした毎日を過ごそう」との目標が掲げられている。海外メディアはこの文面から「日本ハイヒール協会は、実用的なフラットシューズを脱ぎ捨てさせてハイヒールを履かせたいとの意図がある」と捉え、先進国中で男女平等ランキングが最下位である日本の男女不平等問題と絡めて報道している。子育てで退職する日本女性の多さ、保育園不足、企業での女性のハンディーなど「日本政府の『ウーマノミクス』は名ばかりだ」と酷評している。
 見た目が美しいハイヒールは長い間多くの女性に愛されてきたファッションであり、女性が自由意思で着用すること自体は何も問題はない。しかし、足への負担が大きいハイヒールの着用を公の場で義務付けることは問題であるとして、欧米ではハイヒール反対運動が活発化している。本年5月にはロンドンで「勤務中の女性にハイヒール着用を義務付けるドレスコードは性差別だ」としてドレスコード撤廃署名活動が始まった。これを契機にハイヒール反対運動が広がり、女優のジュリア・ロバーツもカンヌ国際映画祭に裸足で出席したことが話題となった。
 そもそも「高いかかと」という意味のハイヒールは西洋発祥のファッションである。そのルーツは紀元前400年代のアテネで背を高く見せるハイヒールが遊女の間で流行した事にあると云われている。1570年頃にはヴェネツィアでチョピンというイスラム風ハイヒールが高級娼婦の人気を得ていた。1600年代のパリでは町に溢れる汚物を踏まずに歩ける靴としてハイヒールが愛用されていた。ルイ14世も背を高く見せるために愛用していたなど、前近代から近代初期にかけては男女を問わず履かれていた。しかし、ナポレオン戦争が始まり各国で国民軍が創設されると、男は戦場を駆け回るために機能的な靴を選ぶようになり、ハイヒールは女性専用の履物になった。
 ハイヒールを履くと重心が不安定になり足首を捻挫しやすくなる。又、舗装されていない野道では歩くのに大きなハンディーとなる。本来、人間は裸足での歩行に適した骨格に進化してきた。このためハイヒールを履き続けると骨に無理な負荷がかかり、外反母趾、姿勢や骨盤の歪み、腰痛、むくみ、肩こり、椎間板ヘルニアなどが生じる。
 ハイヒールの愛用で問題となる外反母趾のレントゲン像は、纏足(てんそく)女性のそれと酷似している。実は、ハイヒールは現代の纏足なのである。纏足は幼女期に親指以外の足指を内側に曲げて布で縛り、成長を抑えて小足にする古代中国の美容器具であった。この美容法は南唐の時代に始まり、清代に最盛期を迎え、第二次世界大戦直後まで続いていた。当時は小足の女性が美しく魅力的と好まれ、大足の女性には嫁の貰い手が少なかった。17世紀の西洋でもバレエシューズによって小さくされた足が貴族女性の証とされていた。シンデレラしか履けない小さなガラスの靴は小足美人の婚活小道具であった。日本の舞妓も下部が細い高底靴を履き、歩き方も纏足女性と似ている。何故、古今東西の女性が小足に憧れ、男性がそれを魅力的と想う美意識が生まれたのであろうか?実は、纏足やバレエシューズの本質は「玩蓮」と呼ばれる官能の開発デバイスであった。小足で歩くには身体のバランスを維持するために内股や局部の筋肉と脳内の神経ネットワークを再構築する必要がある。脳の身体地図では足の運動感覚領域と生殖器の感覚領域が隣接しており、両者間や視覚嗅覚領域との間で神経繊維の交差連絡がある。纏足は足の感覚領域と生殖器領域を神経ネットワークで連結させるリモデリング法なのである。明代の『金瓶梅』にも「纏足が五感を介して48種もの官能を刺激する」と記されている。現代女性がハイヒールにこだわり、足や靴が無意識的フェティシズムの対象となってきたことにも脳の身体地図と神経交差連絡が関係している。戦争などで失った幻の下肢が視えたり痛んだりする幻視や幻覚にもこの様な神経ネットワークの脳内交差連絡が関与している。寺島しのぶ主演の名画「キャタピラー」では、両側の手足を失って「軍神」となった五体不満足な夫の性欲が異常に旺盛に描かれているが、シナリオライターはこの様な脳内地図や神経ネットワーク交差連絡を知っていたのかも知れない。足には様々なツボがあり、三陰交や太谿は子宮や卵巣の血流やホルモン分泌を改善して更年期障害に有効とされている。足ツボマッサージのお店は世界中にあり、女性の人気スポットの一つでもある。足のツボや経絡は、脳の身体地図上の神経交差連絡を介して循環・内分泌系を刺激し、ハイヒールを愛用する女性の様々な悩みを改善する上で有効と思われる。

転載:月刊東洋療法268号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

PAGETOP