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医者いらず健康長寿処方箋(33)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「現代社会と冒険心遺伝子」

 新奇なものを求める性格にはドーパミン神経の受容体遺伝子DRD4が関係しており、この遺伝子は“冒険心遺伝子”とも呼ばれている。未知なものを求める冒険心遺伝子を獲得した人類は、危険な事への挑戦で得られる快感刺激を原動力にしながら過酷な地球の環境を生き抜いてきた。この冒険心遺伝子は、ヒトを進化させ、今日の文明や文化を創り上げてきた陰の立役者でもある。“脳の快感汁”とも呼ばれるドーパミンは、冒険、セックス、ギャンブルなどで興奮した際に多量に分泌される報酬系伝達物質である。
 ネグロイド、コーカソイド、モンゴロイドを問わず、全ての人種はこのDRD4遺伝子を持っている。この受容体遺伝子内には同じ塩基配列が2~7回繰り返される部分があり、その反復回数が多いほど多くのドーパミン刺激を求める傾向が強くなり冒険好きになる。この反復回数には人種差や個人差があり、欧米のコーカソイドや南米の人々では7回繰り返し構造のDRD4-7R遺伝子を持つ人が多い。長い受容体を持つ人では刺激を求めるドーパミン神経が活発であり、ドーパミンが分泌されると更に強い刺激を求めるようになる。人類史ではこの遺伝子が、新たな資源を求めて大航海時代に植民地を拡大し、単独で真冬のエベレストに挑み、スペースシャトルで月に行ったり宇宙旅行を試みるなど、人々を命知らずの挑戦に駆り立ててきた。ギャンブルや麻薬に手を出して止められなくなるのもドーパミン受容体遺伝子のなせる業である。日本人では4回繰り返し構造の短いDRD4-4R遺伝子が大多数を占めている。欧米人と比べて日本人は失敗を恐れてチャレンジ精神が乏しい民族であると云われるが、この民族性の背景にもDRD4受容体遺伝子が関与している。
 病原体は動物にとって永遠の宿敵であり、彼らに対する防御機構を常に進化させなければならなかった。この目的で動物が獲得したのが免疫的多様性を拡大する遺伝子の有性生殖システムである。産みっぱなしの魚類などと異なり、胎児を子宮内で育てる哺乳類の雌が生涯に出産できる個体数は著しく限られてくる。この為に哺乳類では遺伝的多様性の拡大速度が著しく低下する。哺乳類の少ない産子数と免疫的多様化減速のハンディーを補う戦略として進化したのが乱婚システムである。事実、哺乳類の約97%以上が乱婚型であり、人類でも祖先がチンパンジーと分枝する前からこのシステムが継承されてきた。ドーパミン受容体遺伝子は“浮気遺伝子”と云う異名も持っており、この乱婚型繁殖戦略に深く関与している。野生的で運動能力の高いオリンピック選手やトップアスリートなどにはDRD4-7R遺伝子の持ち主が多く、エネルギッシュで多情多感である。この事と関連した裏話として、五輪主催国は常に大量のコンドームを供給するために奮闘していると言われている。例えば、2000年のシドニー五輪では配給した7万個のコンドームがわずか1週間で底をついたので、2010年のバンクーバー冬季五輪では10万個が供給されたと言われている。健康でエネルギッシュなアスリートの優れた運動能は、多情多感なドーパミン受容体遺伝子に支えられているのである。
 ドーパミンは能動的活動で多く分泌されるので、アスリートのみならず、権力志向性や自己顕示欲の強い起業家や政治家などでも多く分泌されている。このドーパミン受容体は、冒険心を駆り立てるのみならず、離婚率や婚外子の割合にも影響している。地域や宗教的背景で多少は異なるが、人類の3~6割は婚外子であるとのデーターがある。その大半は情熱的DRD4-7R遺伝子が多くて離婚率の高いアムールの国で産まれている。これが “英雄色を好む”と言われる所以でもある。某哲人は“判断力の欠如で結婚し、忍耐力の欠如で離婚し、学習力の欠如で再婚する”との体験的迷言を残したが、時空を超えた人類の「三欠如力」が遺伝子の多様化と免疫的生存能力を支援し続けてきたのである。古今東西、絶えることの無いスッタモンダも浮気遺伝子DRD4に組み込まれた進化生物学的生存戦略の副産物なのである。
 しかし、ドーパミン受容体が求めるのは報酬系の興奮であり、その手段は色恋である必要はない。脳でドーパミン神経を刺激する人間活動は、スポーツやギャンブルのみならず、研究や社会的慈善活動まで、蓼食う虫も好き好きであり、手段は問わない。ドーキンズの「利己的遺伝子」は有名であるが、ヒトは「利他的遺伝子」も持っている。シュバイツアーやマザーテレサの人道的行為から東日本大震災で世界中からボランティアが結集して献身的支援活動に没頭したことも利他的遺伝子のなせるワザである。これらの利他的遺伝子の活躍も、大いなる冒険心や未知への挑戦と同様に、脳の報酬系を刺激して人を駆り立てる。この様な利他的遺伝子が活性化される最小単位が家族であり、その延長線上に愛する仲間や民族を支援する文化が創生されてきたのである。利他的遺伝子が心の琴線を震わせる活動は、ミラーニューロンやドーパミン神経を介して人々に希望を与える心のビタミン剤となる。この感動や希望は若さの原動力であり、心のアンチエイジングホルモンでもある。ウルマンの名詩「青春」でも詠われているごとく、高齢者の希望や感動は海馬の神経細胞死を抑制して認知機能を強化してくれる。超高齢社会の現代では、冒険心遺伝子を適度に活性化し続ける事が認知症予防と健康長寿の妙薬となる。

転載:月刊東洋療法270号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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