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医者いらず健康長寿処方箋(62)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「テルマエ・ジャポニカと健康長寿入浴法」

 ヤマサキマリの「テルマエ・ロマエ」は主人公に温泉経由で現代日本と古代ローマ帝国を時空ワープさせる面白い漫画である。映画では「与作」の歌をバックに恍惚の境地に浸る日本猿の入浴シーンもあり、ニヤリとさせるニクい脚色である。この作品ではローマの負傷兵達が温泉で速かに回復して戦線に復帰するシーンがある。温泉やサウナが健康に良いことは古くから経験的に知られており、日本でも「湯治」が万病の治療に利用されてきた。私も学生時代に岡山大学の温泉研究所で楽しい実習授業を受けて温泉好きになり、熊本の阿蘇や東北のひなびた温泉で疲れを癒すのがささやかな楽しみであった。健康には食事、運動、生活スタイル、精神衛生など様々な要因が関与する。古くより“ヒトは血管と共に老いる”と言われてきたが、生活習慣病の大半は全身の組織にエネルギーを供給する中~細動脈の硬化に起因する。高齢社会では動脈のしなやかさを維持する事が健康長寿の秘訣である。日本は大戦後の短期間に最長寿国となったが、これには温かい湯船で毎日動脈と自律神経を刺激して血液循環動態を改善する効果も大きいと考えられる。
最近、約1,600人を対象に15年間の追跡調査が行われ、「サウナを週に1回利用するより数回利用する方が脳卒中の危険性が約14%低く、4~7回利用すると約61%も低くなる。この効果は運動習慣、喫煙、糖尿病の有無などの関連因子を考慮しても変わらない」との結果が学術誌Neurologyに掲載された。入浴やサウナには散歩やスポーツと同様のカロリー消費作用があり、定期的入浴によりII型糖尿病患者の血糖値も改善され、認知症や脳卒中のリスクが低下して循環器疾患による死亡率が減少する。運動が体に良い事は分かっていても三日坊主で終わる事が多いので、心地よい入浴は嬉しい健康増進法である。
 実は通常の入浴よりも遥かに効果的な健康増進法がある。42~43℃の熱い浴槽に浸かった後に休憩し、これを数回繰り返す「高温反復入浴法」である。30分程度の反復入浴で300~400 kcalのエネルギーを消費でき、約1時間の速足ウォーキングや30分間のジョギングと同程度の消費量になる。高温反復法では交感神経が活性化されて効率良くカロリー消費でき、多様な熱ショック蛋白が発現して全身組織の新陳代謝や復元力が増強される。
高温反復法では、コップ1杯の水を飲んだ後にぬるめのシャワーで足から手、体幹へと掛湯しながら徐々に体温を上げ、身体が温まったら足から腰、腹、胸までユックリと湯船に浸けていき、5分程肩まで全身浴する。次いで浴槽から出て5分程体を洗い、再度、同じ要領で熱い湯船で5分程全身浴した後に5分程休憩する。これを3回繰り返した後に足から手、体幹へと徐々に水をかけていく。30分の高温反復法を毎日続ければ1ヶ月で約12,000 kcalを消費でき、これは体重約1.7 kg相当のカロリー量になる。高温反復浴では開始前に水分を補給し、全身の温度を一気に変化させない事が大切である。私のオフィス近くの温泉には大阪市の中心部でありながらユッタリとした6種類の浴槽があり、高温の浴槽は42℃で低温は15℃程度であり、この温度差のある入浴の間にシャワーで体温を馴染ませながら反復浴を数回繰り返している。
 皮膚には触圧温痛覚を検知する感覚神経が分布し、高温反復浴の温冷刺激はルフィ二小体などのTRP受容体を介して脳に伝えられる。TRP受容体はワサビ、唐辛子、コショウなどのスパイスの苦味や辛味を検知する味覚受容体が進化したスーパーファミリーを形成しており、多様な毒物のセンサーとしても機能している。唐辛子のカプサイシンは脳内麻薬カンナビノイドの受容体に作用して快感を誘起する。その強度により呼吸循環系、エネルギー代謝系、免疫系などが無意識下で制御され、強い刺激では温覚や痛覚を誘起する。高温反復浴の効果にはこの様な脳免疫エネルギー統合系が関与している。私の提唱している動脈マッサージ(PHP研究所編)を反復浴中に行えば、ダイエット効果、ストレス解消効果、疲労回復効果に加え、動脈硬化の予防にもなり一石四鳥である。入浴前は約140/85 mmHgの血圧が反復入浴後には120/60 mmHg程度まで低下して爽快である。この調子では山の神に小言を言われながらも平均的日本男児の健康寿命を寿げそうである。新陳代謝を活性化する動脈マッサージには美肌効果もあるので女性にもオススメである。自宅では熱めの浴槽とシャワーを交互に用い、就寝1時間以上前に行えば疲労回復効果も大きい。高温反復法は自律神経や新陳代謝を刺激するので、顕著な動脈硬化や高血圧の方および妊婦などにはぬるめの浴槽に肩まで浸かる優しい入浴がお勧めである。
 日本では年齢に関係なく血圧を140/90mmHg以下に保つ様に降圧薬が乱用されている。脳は自身に必要な血流量を確保する為に自動制御し、加齢に伴う動脈硬化に応じて血圧を上げている。血圧の正常値は年齢や個人により異なるので、降圧薬の乱用は脳障害を加速する。血圧を薬で下げる代わりに動脈硬化を軽減する事が根本的な予防治療なのである

転載:月刊東洋療法299号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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