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医者いらず健康長寿処方箋(64)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「驚愕の高血圧国家」

 エネルギー消費量の多い脳は自分に必要な酸素や栄養素を確保する為に血圧中枢で血圧を正確に制御している。ヒトでは加齢に伴い動脈硬化が起こるので、年齢と共に血圧を上げなければエネルギー不足で脳が障害されてしまう。しかし、血圧が動脈壁の耐久強度を超えると脳や心臓の血管が障害されてくる。高齢者の高血圧が問題になるのは動脈硬化により脳卒中などが起こりやすくなるからである。一方、人ごとに体重や身長が違う様に動脈硬化の進行にも個人差があり、“血圧の正常値”も個人により異なる。この為、長い間「加齢により血圧が上昇するのは自然な適応現象であり、その正常値は“年齢+90 mmHg”」と考えられてきた。この一律に“+90 mmHg”が最適か否かには議論があるが、“血圧の正常値”を年齢と共に引き上げていく発想は科学的に優れている。戦後の経済発展により栄養状態が大きく改善され、血管組織も強くなって脳卒中の発症率が大きく減少してきた。この為、高齢者の血圧を薬で一律に下げる事には大きな問題がある。しかし、何時の間にか年齢に関係なく“140/90 mmHg以下に降圧治療する事”が多くの医師の常識となってしまった。この基準により降圧薬を飲んでいる日本人患者は約4300万人に増加し、この薬の費用だけで1兆円を超えてしまった。
 今回、日本高血圧学会は高血圧の“降圧目標値”を更に130/80 mmHgへ引き下げる様に高血圧治療ガイドラインを改訂した。これにより6300万人以上が“血圧に問題のある人”となり、世界最長寿民族でありながら過半数が降圧治療の対象にされる事になった。この基準値引き下げにはアメリカでの臨床試験が大きく影響している。60歳以上で血圧が160 mmHg以上の約4700人を対象に降圧薬の効果を5年間観察した結果、脳卒中発症率が非治療群の8.2%に対して治療群では5.2%である事が判明した。しかし、この結果は「降圧治療により脳卒中発症率が36% (3÷8.2 x 100 = 36)も改善される事が実証された」と報告された。この様にデータを操作すれば“降圧治療は極めて有効である”と誤解されてしまう。2015年に9千人の高血圧患者を140又は120mmHg未満に降圧治療して心筋梗塞や脳卒中の発生率と全死亡率を比較したアメリカのSPRINT試験により、“130/80 mmHg以上を高血圧症とする基準"が誕生した。欧州でも2017年に基準値を140/90 mmHgに据え置いたまま降圧目標を130/80 mmHg未満に引き下げた。しかし、これらの期待とは逆に降圧治療された高齢者がフラついて転倒骨折で寝たきりになる例も多くなってきた。フランスとイタリアの特別養護老人ホームで80歳以上の男女1100人を調査した研究でも「降圧薬を2種類以上飲んで血圧を130未満に下げたグループでは死亡リスクが2倍以上高くなり、真面目に降圧治療したグループが最も寿命を縮めていた事」が判明した。降圧薬で血圧が下がり過ぎて寝たきりや腎不全になったことが寿命短縮の原因であった。
 最近、注目されている“フレイル”は、加齢により筋力、認知機能、心身の活力などが低下して死亡リスクが高くなる虚弱状態である。歩行困難の高齢者における研究では、血圧が140 mmHg以上の方が死亡リスクが低く、心身が弱った高齢者では血圧が高目の方が長生きできる事も判明している。この為、フレイルの高齢者では降圧治療がQOLを低下させて死亡リスクを高めるので降圧治療をやめる様に警告されている。しかし、多くの介護施設では“血圧が高いと入浴させられないという規則”を理由に降圧剤が投与され続けている。
 多くの医師達は学会のスタンダード治療を忠実に守る事が良心的医療であると信じて高齢者も積極的に降圧治療している。しかし、80歳以上の高齢者の降圧試験では病弱な人を参加者から除外して元気な高齢者のみを試験対象としている。この為、試験結果を全ての高齢者に当てはめることはできない。製薬企業が最大のスポンサーである医学会の臨床報告では企業絡みの利害が関与する事が少なくない。降圧剤ディオパンの臨床試験におけるデータ改ざんスキャンダルはその典型的な例である。この傾向は欧米先進国でも同様である。流石に気が引けたのか、日本高血圧学会の専門家達は「今回の基準値改定は“高血圧”ではないが心臓血管病のリスクが高まる可能性のある人の生活習慣を改善する為の努力目標である」と苦しい説明をしている。しかし、歳と供に誰でも動脈硬化が進むので、全員がリスク保有者である。巷ではその追い風を受けて「高血圧の基準が変わりました!血圧が気になる方は我が社の〇Xを!」などと不安を煽る宣伝が氾濫している。真面目な医師は少しでも患者のリスクを少なくする為に積極的に降圧治療を行う様になる。しかし、動脈硬化を薬やサプリメントで予防するのは困難であり、一律に血圧を下げる事には無理がある。
 “ヒトは血管と共に老いる”と言われる様に、身体の自己復元力を強化して加齢に伴う動脈硬化を予防する事が健康長寿の基本である。筆者は「何時でも何処でも誰でも簡単に動脈硬化や高血圧を予防できる血管マッサージ法」を提唱してきた。これは自分の手で皮膚を骨に押し付けながら全身の動静脈を刺激する方法であり、動脈硬化や高血圧を予防する特効薬でもある。紙面の都合で詳細は省くが、筆者のホームページの「動脈マッサージ」をご覧頂き、医者要らずの健康長寿をお楽しみ頂きたいものである。

転載:月刊東洋療法301号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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