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医者いらず健康長寿処方箋(76)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
ご連絡はURLより。 http://www.inouemasayasu.net

「武漢風邪とコロナのインフォデミック」

【パンデミックの最大のリスクはメディアが煽るインフォデミックとパニック反応である】 新型コロナウイルスの感染症COVID-19は瞬く間に世界へ広がり、僅か3ヶ月で米国、イタリア、スペインなど200ヶ国以上で180万人の感染者と11万人の死者を出した。その後も感染は拡大し続けており、国境封鎖やロックダウンなどで世界中がパニック状態に陥っている。日本でも約7,000名の感染者と132名の死亡者が確認され、4月7日には関東、関西、博多地域に限定した緊急事態宣言が出され、9日後にはそれが全国に広げられた。COVID-19はスペイン風邪や香港風邪と同様に将来的には“武漢風邪”と呼ばれる風邪の仲間である。風邪の原因ウイルスとしてはライノウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス(HCOV)などが古くより知られており、日本人の大半は幼児期に感染して抵抗力を獲得している。その為に感染しても多くは無症状で経過するが、“万病の源”と言われる風邪をこじらせると重症化して肺炎で死亡することもある。百年前にパンデミックとなったスペイン風邪は世界中を震撼させたが、その後もSARSやMARSなどの新型ウイルスによる風邪が50回近く発生している。“武漢風邪”の多くは無症状であるが、基礎疾患があったり免疫力が低い高齢者で重篤化すると間質性肺炎を起こす。
 感染症は人類永遠の宿敵であり、それを根絶する事は不可能である。新興感染症は免疫のない人々に発症し、多くが感染して集団免疫が確立されると流行が下火になる。しかし、季節性インフルエンザでも毎年米国で数千万人が感染して約3万人が死亡し、日本でも約2千万人が感染して1万人が亡くなっている。武漢風邪の死亡率は国により大きく異なり(0.1~10%)、先進国中では日本の感染者や死亡者数が著しく低い事が注目されている。これと関連してWHOのテドロス事務局長が“検査・検査・検査”と連呼した言葉を切り取り曲解したメディアや自称専門家達が“日本のPCR検査数が少ない事が問題であり、欧米同様に増やすべきである”と主張し、これに煽られた野党連合がPCR検査を拡張する法案を国会に提出した。しかし、抗体検査と異なり、感度や特異度が低いPCR検査は偽陽性や偽陰性が多い事などで多数の無症状者をスクリーニングするには不向きである。肺炎と診断された患者でウイルスの同定に利用するのが基本である。海外で実施されている“ドライブスルー方式”などは政治的パフォーマンスの要素も少なくない。事実、偽陽性率が高い事から中国でもPCR検査は診断基準から除外されてしまった。ウイルス性肺炎はCT画像でスリガラス様の所見を呈するので容易に診断可能である。この装置は高額であるが、世界の30%もが日本国内にあるので多くの病院で利用できる。CT画像で間質性肺炎が確認された患者を中心にPCR検査をすれば十分である。又、ウイルスが陽性である事が分かっても特効薬が無い現場では間質性肺炎に対する基本的治療方針は変わらない事も重要なポイントである。
 百年に一度のパンデミックに対応可能な医療インフラを常備しておく事は不可能であり、非常時には手持の武器で臨機応変に対応する事が基本である。パンデミックでは死亡者を減らすことが最重要課題であり、医療の基本に立ち返って行動することが大切である。集中治療室(ICU)が少ない事が医療崩壊の原因になると危惧されているが、日本には高度治療室(HCU)、冠疾患治療室(CCU)、脳卒中集中治療室(SCU)など、ICUに匹敵する優れたインフラも少なくない。これらは武漢風邪の重症患者にも利用可能であり、医療崩壊を阻止する有力な武器となりうる。緊急時にこそ柔軟で俯瞰的な思考力が必要である。
 日本では緩い自主規制であるにもかかわらず緊急事態宣言以前から人口当たりの死者数が極めて少ないが、この事実は日本のコロナ対策を考える上で大変重要である。土足で家に上がらない日本では何処の神社にも手水舎があり、海外に較べて手洗いによる予防習慣が根付いている。握手の代わりに会釈してハグやキスの習慣も少ない日本は感染リスクの低い清潔な国なのである。同じく緩い規制で日常生活を続けているスウェーデンの人口は日本の10%以下であるが、死者は110人で死亡率は10倍も高い。しかし、国境閉鎖やロックダウンを行った隣国ノルウェーやデンマークと対照的に、スウェーデンでは適度な社会的距離を維持する注意喚起のみでパブやレストランは営業しており、幼稚園や小学校も通常通りで公園には子供達の遊ぶ声が響いている。このスウェーデン方式は長年に渡りノーベル賞を厳選してきた科学者の洞察力や成熟した強かな民度に支えられている様である。日本とスウェーデンの社会環境は大きく異なるが、緩やかな対応では類似している両国のコロナ収束後の結果はインフォデミックによる人災を最小化する為の羅針盤となるかもしれない。新規感染症では想定外の惨事も起こりうるが、過度の自粛が長期化すると鬱や生活習慣病を深刻化させかねない。感染予防の基本は “集近閉の回避と手洗い”であるが、簡単にできる“ウガイや鼻洗浄”も極めて有効である。今年は感染予防対策が徹底された為にインフルエンザによる死者数が80%も減少したとの朗報もある。特に日本ではメディアが煽るインフォデミックや過剰な社会的同調圧に翻弄される事なく、粛々と日常生活を維持しながら俯瞰的思考力と心の免疫力を強化したいものである。

転載:月刊東洋療法313号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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