トップ > お知らせ一覧 >「医者いらず健康長寿処方箋」(86)

医者いらず健康長寿処方箋(86)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康


 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
ご連絡はURLより。 http://www.inouemasayasu.net

「コロナ恐怖症と遺伝子ワクチン」

 新型コロナウイルスの感染症COVID-19がパンデミックとなり約1年が経過した。この間に世界中から多くの情報が寄せられ、彼らが旧型風邪コロナよりも約6倍感染力が強い冬型の風邪ウイルスであり、血圧を制御するACE2受容体を介して血管壁の細胞に感染して血栓を誘起し、大半は無症状で経過するが免疫力の低下した高齢者では重症化し易い事が明らかになった。欧米と比べて日本ではウイルスの実害が遥かに少なかったが、未だに人災的被害は深刻化し続けている。
 その原因となった一つがPCR検査であり、これを極めて変異しやすRNAウイルスの臨床診断に不適切に誤用した事である。もう一つの原因は彼らを指定感染症2類に分類し、これを1年も延長して未だに放置している事である。これらが二人三脚で医療崩壊を誘発しかねない状況を作り出している。一方、視聴率至上主義のメディアが国民の恐怖心を故意に煽って過剰反応させ、ウイルスの実態を把握しながら世論と支持率低下を恐れてマトモに政策を展開できない政府の迎合的無作為体質も重要な原因である。世論の逆風で正しい政策を出さずに保身に走る政治家の体質が日本のアキレス腱であり、若い世代の現在と未来を犠牲にしている大人の責任は極めて大きい。
 ウイルスへの恐怖心と過剰な自粛強要による窒息感と経済的疲弊がワクチンへの期待を肥大化させている。天然痘を撲滅させたワクチンは近代医学の輝かしい成果であり、我々はその大きな恩恵を受けてきた。丁度50年前の大学院生時代に、私は恩師・妹尾左知丸先生からワクチンの研究を勧められた。当時のワクチンは病原体を弱毒化した生ワクチンや化学処理した死菌ワクチンが主流であった。生ワクチンは有効であるが、病原体が先祖返りする事もあり危険性も高かった。一方、死菌ワクチンは病原体の抗原蛋白質が変性している為に安全ではあるが効果が低い事が問題であった。BCGの様に複数回接種しなければ効かないのはその為である。私は病原体の抗原分子を生きた状態に保ちながら死菌化することにより安全で有効なワクチンができると考えた。その当時、蛋白質の二次構造を解析する装置を大阪大学医学部が所有している事を知り、大阪万博の年に内地留学してワクチンの開発を視野に入れて蛋白質や酵素を研究していた。
 当時の古典的ワクチンと異なり、今回の新型コロナワクチンの多くはDNAやmRNAを利用した遺伝子ワクチンである。実は、遺伝子ワクチンには軍事防衛の目的で開発されてきた特色がある。米国でハイジャックされた旅客機によりニューヨークのワールドトレードセンターが崩壊した9.11テロの直後に、各地で炭疽菌が郵送されるバイオテロ事件が勃発した。これに危機感を募らせた米国のペンタゴンが軍事物資として開発に力を入れたのが遺伝子ワクチンである。ゲノム科学の飛躍的進歩により、多様な病原体に対するワクチンを極めて短期間に開発可能であり、安価に大量生産できるメリットもある。米国、中国、ロシアをはじめとする日本以外の国々では、遺伝子ワクチンの研究開発が医療政策と同時に国防政策として進められてきた。
 古典的ワクチンでは弱毒株、死菌、病原体成分などを接種して免疫反応を誘導するが、遺伝子ワクチンでは抗原分子の遺伝子を接種して体内で蛋白質を産生させ、それに対する免疫反応を誘起する。細胞内ではDNA→mRNA→蛋白質と一方向に反応が進むので、接種した不安定なmRNAは蛋白質を産生した後に速やかに分解されるので安全と考えられている。実はこのRNA遺伝子の不安定さがコロナウイルスを突然変異させたり、mRNAワクチンをー70℃以下で保存輸送しなければならない理由でもある。一方、二重螺旋のDNAは安定な為に、DNAワクチンは通常の冷蔵庫で保存輸送できるが、細胞の核の遺伝子に組み込まれる可能性もある。実はヒト遺伝子の約30%以上はウイルス由来であり、残りの多くも微生物由来である。ヒトは彼らの遺伝子を取り込んでその作用を利用しながらホモサピエンスへと進化してきたのである。外来のDNAが核の遺伝子に組み込まれやすい事は古くから知られていたが、エイズなどのレトロウイルスの研究で、彼らの逆転写酵素によりRNA遺伝子がDNAに変換されて核遺伝子に組み込まれることが明らかになった。がん遺伝子やがん抑制遺伝子もこの様にして誕生し、今では細胞の分裂制御に必須の遺伝子として我々の生命活動を支えている。生物進化は何億年もかけて起こる現象であり、個人の短い人生でそれが起こる可能性は極めて低い。しかし、病人が服用する薬剤と異なり、ワクチンは何億人もの健常人に接種する為、極めて慎重な長期安全性試験が不可欠である。今回はパンデミックの恐怖感でこの様な安全性試験が軽視され、遺伝子ワクチンを多数のヒトにいきなり接種する医学史上初の人体実験となった。我々は数十億年かけて進化してきた生命機構の極一部を垣間見ているに過ぎず、医学は無数の屍の上に築かれてきた経験的実学である。新しい医薬の使用に関しては様々な可能性を考えながら謙虚に恐る恐る進める事が重要である。実は昨年、新型コロナウイルスの遺伝子がヒトの細胞核にも存在することが論文で報告されたのである。
 今、世界中でワクチンの争奪戦が展開されており、日本も安倍前首相がアストラゼネカ社、ファイザー社、モデルナ社などから合計2億8,000万回分のワクチンを6,714億円で購入した。新型コロナのワクチン接種が世界的規模で開始された昨年末に日本政府は“改正予防接種法”を成立させた。本年2月にファイザー社のmRNAワクチン約4万回分が日本に到着し、医療従事者を中心に接種され始めた。実は18年前に隣国でSARSが発症した際にも今回と同様にワクチンが注目された。しかし、ワクチンを接種する事により抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれる深刻な副反応が多発する事が判明し、それ以後ワクチンの開発は断念されていた。新型コロナはSARSウイルスと類似している為に、ワクチン研究者達はADEが起こる可能性を強く懸念している。
 幸いにも大半の日本人は多数の中国人旅行客と共に入国した弱毒型コロナウイルスに無症候感染して集団免疫を獲得しており、既にワクチンを接種したのと同様の免疫状態にある。この為に長期安全性試験をしていない遺伝子ワクチンを多数の健常人に接種する医学的必要性はなく、特定の免疫弱者や海外渡航者などに限定して利用すべきである。安倍前首相が苦労して入手してくれた遺伝子ワクチンは高額ではあるが取り敢えず備蓄に回し、万が一にもSARSやMARSの様な猛毒コロナ株が誕生した際に緊急利用するのが医学的な基本戦略である。オリンピック開催を視野に入れて今月から日本でもワクチン接種が開始された。私の心配が藪医の取り越し苦労であることを祈るばかりである。

転載:月刊東洋療法323号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

PAGETOP