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Dr.タコのお気軽クリニック 「高齢者と運転」339号

 高齢ドライバーによる交通事故が世間を騒がせています。高速道路の逆走や急速で人混みに突っ込むなど、大事故につながったケースも多く報じられ、悲惨な事故のあとは運転免許証を自主返納する方も増えました。今回は医学的に高齢者と運転を考えてみます。

 事故の多発を受けて2017年3月には改正道路交通法が施行され、75歳以上は高齢者講習に加え認知機能検査などが強化されました。さらに令和4年5月からは高齢者の免許証の更新等の手続きにおいて、新たに運転技能検査が導入されています。一定の違反歴がある方は、検査に合格しなければ免許証を更新できなくなったのです。教習所の待ち日数も増加し混雑しているようです。
 1995年から2015年までの20年で、高齢者人口は約2倍に増加しましたが、これに伴い高齢ドライバー数は480万人から1,710万人と4倍近くに増えています。マイカーブームの時代に郊外型のライフスタイルが広まった世代がご高齢になったのです。
 車社会の日本において、特に代替移動手段に乏しい田舎地域では生活が不便になってしまうため、運転をやめたくてもやめられない事情があります。自転車や徒歩での移動は困難となり、バスや電車は利用しにくく、車の魅力は高まります。高齢者世帯では一人暮らしや夫婦のみの世帯が半数を超えていて、助けてくれる家族がいないため自ら運転しないといけない場合も多いのです。
 高齢者に限らず、自動車は移動手段の他に、楽しみとか自尊心の満足という意味もあります。「仕事をやめても車はまだ現役だ」という自負が運転が生きがいという理由の一つかもしれません。運動機能は低下してもそれを経験と知恵で補いながら運転を続けている方も多いはずで、認知機能の低下がすなわち危険運転としていいのか難しいところです。
 マスコミは「高齢ドライバーは危険」というメッセージを伝えがちなため、偏見を助長する傾向もあります。危険にならないうちに運転をやめさせようと考えるか、なるべく運転を支援しようと考えるかで対策の方向は全く違ってきます。
 医学的には、年齢とともに視力低下、視野狭窄や筋力低下、反射神経の鈍化など生理的変化が起こります。病気にかかりやすく生活習慣病を有するということも事故に関係します。高齢者特有の疾患が増えて、これらは「老年症候群」と呼ばれ、転倒、尿失禁、認知症、睡眠障害、意識の混濁、慢性めまい症など、多くの病気が当てはまります。また高齢者は身体が弱いため同じ事故でも死亡事故が多くなりがちです。
 危険防止機能付きの自動車も増え、自動運転装備も進歩しており、事故防止に一定の効果を果たしていますが、まだ多くが実験段階です。これらを考慮すると高齢者には運転を断念していただく方向に傾いてしまいそうです。
 一方で高齢者にとって車の運転は、医療や介護の費用の節約になるという報告もあります。車の運転の継続が、健康ひいては介護予防に有効な可能性があるというのです。このような観点も忘れてはならないと思います。
 社会では免許制度(限定免許)、更新時の試験(運転技能の評価)、返納後の移動手段の確保など。個人では自分の運転技術の自覚、訓練、返納のタイミング、家族の支援など多くの問題が山積しています。
 高齢ドライバーも、正確な情報を得て、高齢者交通事故の特性や、自身の運転の問題点を知れば事故を起こさずに済むかもしれません。自分や身近な人がいつ加害者や被害者になるかわかりません。他人事と考えずに、安全安心な社会に向けて皆さんで取り組んでいきましょう。

転載:月刊東洋療法339号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

Dr.タコ  昭和40年生まれ、慶應義塾大学医学部卒。田んぼに囲まれたふるさとで診療する熱き内科医。

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