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Dr.タコのお気軽クリニック 「深呼吸の必要」341号

ちまたでは女性の間でヨガが人気です。ヨガは腹式呼吸と瞑想でストレス解消、心身の安定を得ようとするものですが、ダイエット効果もあるようです。タコはヨガの専門家ではありませんが、医学的にヨガの効果を考えてみたいと思います。

 ヨガの特徴の一つに、意識的な呼吸のコントロールがあります。私たちは普段無意識に呼吸していますが、心臓の拍動とは違い、呼吸は意識して行うことができます。大きく分けて胸式呼吸と腹式呼吸があり、胸式呼吸は胸を前後して肩を上げ下げするもので、ヨガで行う腹式呼吸は横隔膜と腹筋を使って肺を伸縮させるもので、横隔膜を下げることで空気がふだんより沢山取り込まれます。
 腹式呼吸では換気量が増え、体内に取り込む酸素の量も多いので、脂肪の燃焼が促進され、基礎代謝も増えます。内臓が大きく移動するために各臓器の働きも活発になり便通にも良いとされます。一日何回呼吸しているかを考えたら、呼吸法の変化がもたらす違いは非常に大きいことがわかります。
 お年寄りに多いのですが、少し歩くと息が切れるという方がいます。肺や心臓に問題があることもありますが、姿勢に原因がある場合もあります。背中を丸めて下を向いて身体が縮こまっている方が多いようで、これではあまり肺が膨らみませんね。背筋を伸ばしてゆっくり大きく呼吸してみたら、とお話ししたらすぐに改善した方もいました。
 ヨガでは深呼吸やストレッチで末梢血管が拡張して血行が良くなり、冷え性にも効果があります。これは深呼吸により肺の表面がふくらみ、プロスタグランジンⅠ2(アイツー)という、末梢の血管拡張作用がある生理活性物質が分泌されるためです。血圧が高いときに数回深呼吸しただけでずいぶん血圧が下がることに気づいたひともいるのではないでしょうか。
 「高い、大変だ!」と心配してあせるほど血圧は上がりがち。患者さんあるあるですが、症状がないのに血圧が高くて、心配になって何度も何度も測っているうちに200mmHg近くになり、心配で救急外来に来る方がいます。受診した時には安心したのか下がっていることも多いのです。
 自動車事故に例えて「アクセルとブレーキを踏み間違えているんですよ」と説明します。心配して何度も測定する行為がアクセルで、ブレーキはゆっくり深呼吸して安静にすることです。自覚症状がなければ、あわてず深呼吸して、水を飲みしばらくしてから測り直しましょう。
 深呼吸とストレッチには副交感神経の活動を活発にするという効果もあります。これにより身体がリラックスし、イライラや不安が落ち着きます。ひとは緊張している状態では知らずに呼吸が浅く速くなっています。逆手にとって呼吸法を変えることでこの緊張から抜けられるかもしれません。寝る前に行えばぐっすり眠れるという効果も期待できます。
 意識せずとも止まることのないこの呼吸とは、なんと不思議な素晴らしい仕組みでしょう。食べ物だけではなく、空気はからだにエネルギーを供給してくれ、それは目の前にふんだんにあるのです!節水・節電・節ガスが言われる昨今でも「節空気」とは言われません。こんなことに気づくだけで、ちょっと得した気持ちになったのではありませんか?
 「深呼吸の必要」というのは長田弘さんの詩集ですが、その中の一節に「この世でいちばん難しいのは、いちばん簡単なこと」とあります。これを読み終えたらさっそく大きく深呼吸をしてみて下さい。
 ちなみに「呼・吸」というだけあってまずは息を思い切り「吐く」ことが大切です。頭だけでわかった気にならずに、ホントにやってくださいねっ、はいっ「ふー」

転載:月刊東洋療法341号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

Dr.タコ  昭和40年生まれ、慶應義塾大学医学部卒。田んぼに囲まれたふるさとで診療する熱き内科医。

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