トップ > お知らせ一覧 >Dr.タコのお気軽クリニック 「認知症にならないために」348号
ご家族が認知症になったら、も心配ですが、自分が認知症になるのも怖いですよね、なにしろ、そうなったら自分でもわからないと思うのですから。認知症の治療薬が開発されたというニュースが話題になっていますが、自分でできる対策もたくさんあります。
ただの物忘れでなく、食事したことを忘れたり、妄想めいた言動がおかしいと家族が感じたりする場合は、認知症を来している可能性が高くなります。歳だからと諦めずに、まず一度は病院で器質的疾患(明らかな原因となる病気)を除外しましょう。
治療可能な認知症の原因としては、転倒後に徐々に発症する慢性硬膜下血腫(頭蓋内に血の塊ができて脳を圧迫して機能低下をきたす)があります。遅れて徐々に発症するため、気づかないことも多く、転倒したこと自体を本人が覚えていないこともあります。頭部の画像検査で診断できるので、一度は脳神経外科に相談してみましょう。
また甲状腺機能低下症などの病気が認知症に見えることがあり、うつ病の症状の場合もあります。画像で異常ないといわれた場合でも機能検査もあり、痴呆の度合いを測る簡単なテストがあります。
薬の副作用も考慮しなければなりません。高血圧の場合、自宅ではじつは血圧が下がりすぎていたりします(外来だけ高い白衣高血圧など)。血圧低下が意欲低下に見えることがあるので、家庭でも血圧を測りましょう。
十分な睡眠が取れている(むしろ昼間も眠りすぎ)のに習慣で睡眠薬や安定剤を飲み続けているのも問題ですね。若い頃飲み始めても、加齢で代謝が落ちるので薬の減量が必要になることもあります。老人ホームに入所されている方で、日中から傾眠がちと、睡眠薬や精神安定剤を減量したら、非常に元気になる方もいらっしゃいます。
もう歳なんだからなにもしないで、と決めつけて放置するのも良し悪しです。転倒を怖がるあまり家にこもると、筋力と気持ちが委縮してしまいます(廃用症候群)。日中独居でTV観ていても、脳の機能は維持できないですよね。
健康的な生活習慣(喫煙をしない、飲酒をしない、健康的な食事、定期的な運動、活発な認知活動と社会的接触を組み合わせる)は、記憶力低下の進行を遅らせることが報告されました。「太陽光・笑い・良眠・ウォーキング」には抗うつ作用があることも証明されています。趣味や特技を生かせる環境と仲間を持ち、外に出ましょう。コロナ禍で縮小してしまいましたが、これから地元のお祭りやご近所付き合いが復活していくことを期待したいです。
高齢者の運転免許更新も厳しくなっていますが、田舎では車は大事な交通手段です。危ないからと取り上げる発想ばかりでなく、運転の生きがいや喜びを維持するという発想も大事にしたいですね。
高血圧や糖尿病がある場合はその治療が大事です。脳血管の動脈硬化はもちろん認知症の大きな原因です。ただし血糖値の下がりすぎ(低血糖)も意識レベルの低下を招き認知症を悪化させる可能性があるので注意が必要です。
すっかり悪者扱いのコレステロールですが、あまり低すぎても死亡率が上がります。肉類の不足がうつ状態の一因となることもあります。無理な減量や偏った健康法でなく、多くの品目をよくかんで腹八分に食べましょう。
サプリなども根拠が怪しいものや高価な健康食品を漫然と買わずに、本当に有効なものを長く続けましょう。ビタミンC・Eにもある程度の予防効果が報告されています。
認知症というと高齢者の問題と捉えがちですが、若年型認知症や、最近問題の「スマホ認知症」という概念もあります。若い世代も漫然とスマホに依存していると認知症に似た症状を発症することがあるのです。
痴呆から認知症と名称がかわると「病気だから治療できるはずだ」というふうに思いがちです。全て違うとは言いませんが、アンチエイジングの試みと同じく、それだけに没頭せずに、今の自分をあるがままに「認知」し受け入れることは決して敗北ではないと思うのです。
人生100年時代、というキャンペーンに振り回されずに、自分らしい日々を楽しんでいただきたいというのがタコの結論なのでした。
転載:月刊東洋療法348号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会
Dr.タコ 昭和40年生まれ、慶應義塾大学医学部卒。田んぼに囲まれたふるさとで診療する熱き内科医。