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健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康
井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
ご連絡はURLより。 http://www.inouemasayasu.net
16世紀のヨーロッパは、コレラ、チフス、ペスト、天然痘など、様々な疫病に悩まされていた。日々の食事に不可欠な肉や魚は塩漬けで保存していたが、直ぐに味が悪くなって腐敗臭も強くなる。寒い冬を超えて春まで生き延びるには半腐れの肉でも食べざるを得ず、常に食中毒に悩まされていた。このために“悪臭が悪霊を呼び寄せ、臭いを消す香辛料が悪霊退治に有効”と信じられていた。香辛料は胃腸や肝臓の薬としても使われ、“魔除けの万能薬”としてヨーロッパ人たちに愛されてきた。 “香辛料を用いる調理は感染症対策として進化してきた生存戦略”なのである。当時、香辛料の主産地であるインドやインドネシアなどと交易していたベネチアが富を独占していたが、この利権を切り崩したのがマルコポーロの『東方見聞録』である。本書にはヨーロッパ人が熱望した金銀に加え、 胡椒、シナモン、クローブなどの香辛料の産地が詳しく記されている。これらの獲得を目指して肉食民族の大航海時代が始まり、大陸への侵略や奴隷貿易と共に現地に持ち込まれた天然痘などで原住民の多くが絶滅した。
18世紀のヨーロッパには「一度天然痘に罹ると二度と罹らず、牛痘に罹ると天然痘には罹らない」との民間伝承があり、それをヒントにジェンナーが天然痘ワクチンを開発したとされている。しかし、既に紀元前1世紀のインドや宋代の中国では天然痘患者の膿を人為的に植え付ける「人痘種痘」が行われていた。天然痘のDNA遺伝子は安定で変異しにくい特色があり、ヒト→ヒト感染のみで動物には感染しない。この様な特色により、1977年のソマリアにおける患者発生を最後に世界から天然痘が消え、1980年にWHOが“天然痘根絶宣言”を出した。学生時代の退屈な講義でこの様なエピソードを聞かされた大半の医師は「ウイルス感染にはワクチンが不可欠である」と信じている。しかし、ワクチンに関する実際の知識は一般市民と大差が無い。
WHOが天然痘撲滅宣言を出した後もバイオテロを警戒する米国、英国、ロシアは天然痘ウイルスを保有していた。しかし、事故により研究室からウイルスが漏出して死者を出した英国は、この危険なウイルスを保有することを断念した。現在では米ロしか天然痘ウイルスを保有していないので、これを用いたバイオテロが起これば誰が犯人かが知られてしまう。致死率が高い天然痘に対して大半の国がテロ対策として“天然痘ワクチン”を備蓄しており、その数や特色は秘密にされている。
天然痘ワクチンには生きた弱毒ウイルス株が用いられているが、ワクチンの増産目的で培養すると病原性が強くなる“復帰変異”と呼ばれる現象が起こる。日本が備蓄している天然痘LC16m8株も培養する度にウイルスが強毒化していく。この欠点を補う為に復帰変異が起こらない“LC16m8Δ株”が開発されており、現状ではこれが最も安全な天然痘ワクチンと考えられている。
天然痘のウイルスはオルソポックスウイルス属であり、様々な動物で特有のポックスウイルスが知られている。感染力は低いが、猿の天然痘とも言えるサル痘ウイルスもその仲間である。最近、世界中でサル痘が異例の速さで感染拡大しており、2022年8月までに海外で1万数千人が感染し、日本でも4例が報告されている。今回のサル痘ウイルスはナイジェリア由来であり、単一の感染経路で欧米に持ち込まれたと考えられる。このサル痘ウイルスでは遺伝子修復酵素が変異しており、DNA変異が約50ヵ所もある。2022年5月 13日 からメディアがサル痘の感染を報じ始め、半世紀前から風土病であったアフリカ諸国を除き、アメリカ、イギリス、カナダ、ブラジル、オーストラリア、ヨーロッパなどで同時に流行し始めた。サル痘と天然痘はDNA配列が類似したポックスウイルスであるが、サル痘の感染力は低く、プレイリードッグなどの齧歯類に噛まれて感染する事が多い。今回は免疫力が低下したAIDS患者の多いアフリカで発症し、同性愛者間で感染拡大したと報道されている。サル痘では1~2週間の潜伏期の後に、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などの症状が見られ、数日後に発疹や水痘が生じて数週間後に治癒する。合併症として肺炎、脳炎、角膜炎などを誘発する事もある。水痘の膿内にウイルスが存在し、これがシーツなどを介して感染する。ヒトでの致死率は1~10%で若者のリスクが大きく、胎盤を経由して胎児に感染すると流産、早産、死産などの原因となりうる。
一方、終生免疫を誘導する天然痘ワクチンはサル痘にも有効であり、45歳以上(1977年生まれ)で接種歴のある日本人は抵抗力を有している。健常者はサル痘に感染しにくく、リスクも低いので過剰反応しない事が大切である。
今回、サル痘が流行した国々は全てmRNAワクチンを接種しており、非接種国での感染例は皆無である。ヒトに感染しにくいサル痘が急速に感染拡大している背景には、mRNAワクチン接種による免疫抑制現象が関与している可能性が考えられる。今回の遺伝子ワクチンではmRNAが分解されにくい様に塩基のウラシルをメチル化修飾しており、これにより自然免疫系や細胞性免疫が抑制される事が判明している。ワクチン接種後に世界中で帯状疱疹やブレイクスルー感染が激増した事は、接種により日和見感染が起こり易くなることを示唆する。80%以上の国民がワクチンを複数回接種した日本でも様々な日和見感染症が増加しており、今回のサル痘に対しても注意が必要である。
新型コロナがパンデミックになる以前の2019年10月に、ビルゲイツ主催の「イベント201」では既にパンデミックの問題が協議されていた。 彼がスポンサーであるミュンヘン会議(2021年3月)でも「2022年5月15日にサル痘の流行が始まり、1年間に2億7,000 万人が死亡する」と予言している。実際には2日違いの5月13日にサル痘の発生が報道され、僅か 10日間で一気に12カ国に拡散した。何故、彼がサル痘の発症日時をこの様に正確に予測できたかは不明である。
転載:月刊東洋療法341号
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