トップ > お知らせ一覧 >Dr.タコのお気軽クリニック 「タバコに関するQ&A」 351号
5月31日は世界禁煙デーでした。電子タバコなどスタイルは変わりましたが、医者としては新たなだましの手法だなと見てしまいます。本当に害のないタバコなどあるのでしょうか?医療介護スタッフにも喫煙者は多く、そこでタバコにまつわる情報をアップデートしましょう。
Q.加熱式タバコなら安全ではないですか?
A.日本の喫煙率は2019年時点で16.7%(男性27.1%、女性7.6%)で、喫煙者における加熱式タバコ使用率が男女共に4分の1を超え20~40歳代での流行が顕著です。紙巻タバコに比べるとニコチン以外の主要な有害物質の曝露量を減らせる可能性がありますが、病気のリスクが減るかどうかは不明です。ニコチンの曝露・吸収動態は紙巻タバコと類似しており、この流行はニコチン依存症が継続し、禁煙意欲や治療の選択を妨げ、受動喫煙対策にも悪影響を与えます。健康への影響が解明されるまでは、予防原則の観点から紙巻タバコと同様の規制が望ましいとされています。
Q.タバコを吸って長生きする人がいますが?
A.喫煙が肺ガンになる危険を高めるのは疫学的な事実で、寿命を縮めるのは統計に基づいた報告です。その中の一例を取り上げてもこの結論は覆らないのですが、お気持ちはわかります。でも「自分は町を時速100キロで走ったが事故は起こさなかったから、制限速度は100キロにしても良い」という人がいたらどう思いますか?タバコを吸っていた人は禁煙したらもっと長生きしたかもしれません。
Q.タバコを吸うと落ち着いて集中できます
A.喫煙者がタバコを吸うと一時イライラが治まります。ではそのイライラはなぜ起こったのか、ニコチンが切れたからです。つまり集中できない原因を作ったのはタバコなのです。非喫煙者が始終イライラしているわけではありませんよね(たぶん)?
Q.禁煙すると太るんじゃないですか?
A.タバコを吸うとやせるといいますが、食欲が落ちて不健康にやつれたのです。禁煙すると食事がおいしく体調が良くなるので体重が本来にもどります。節制しなければ太るのは他の人と同様。喫煙者もやせた人ばかりでないのはご存じの通りです(たぶん)。
Q.禁煙するこつはありますか?
A.禁煙に成功した人の乗り切る秘けつは ①冷たい水か熱いお茶を少しずつ飲む ②深呼吸する ③からだを絶えず動かす ④場所を変える ⑤歯を磨く ⑥野菜を食べる ⑦お酒の席に用心 ⑧煙の多い場所へ行かない ⑨気楽な気持ちで禁煙している時間を延ばしていく。
Q.家族にできることはありますか?
A.家族や職場のサポートも大きく、タバコを減らす努力をしていれば感謝しほめる。灰皿やライターは隠す。いらいらして当たり散らしたときにもやさしく接する。つい吸ってしまったときも意志が弱いと責めずに褒めてもう1回練習しようと次の機会へつなぐ。1回で禁煙できるのは10人に一人、多くは失敗を繰り返しながら禁煙に慣れていくのです。
Q.肺ガンだけ気をつければいい?
A.日本でのタバコの超過死亡数(2019年)は年間21万2,000人にのぼり、高血圧や運動不足・高血糖など、他のさまざまな要因をしのいでワースト1位。肺がんや慢性閉塞性肺疾患のような疾患だけでなく、虚血性心疾患や認知症でも超過死亡が発生しています。全がんの原因の3割は喫煙とされ、喫煙男性が死亡する割合は、喉頭がんで32.5倍、肺がんは4.45倍。1日21本以上の喫煙者は心臓病の死亡率が7.4倍、脳卒中では4.2倍とする調査結果もあります。
Q.いまから禁煙しても効果はありますか?
A.若くして吸い始めるほどリスクは増加しますが、禁煙すればリスクは下がります。禁煙1年で肺がんのリスクは4.45がほぼ2に、5年以上では1.61まで下がるのです。禁煙が確実な長生き方法の筆頭とされるゆえんです。
Q.嗜好品だから個人の自由じゃない?
A.喫煙は周囲の人にも深刻な健康被害を及ぼします。紙巻きタバコの副流煙は有害物質が2~4倍多く含まれ、吐き出す煙を混ざって吸わされるのが受動喫煙です。夫が喫煙者の場合、妻の肺がん死亡率は明らかに高く、まさに「禁煙は愛」です。また親の喫煙で未熟児、死産、低出生体重児、知能発達の遅れ、乳児突然死が増加します。英国では喫煙で妊娠率が40%低下し、男性が12万人も性的不能に陥いるとされ、少子化の一因の可能性もあるのです。
Q.人に迷惑をかけなければいいのでは?
A.タバコ関連疾患の経済面の損失・超過医療費は、能動喫煙で1兆2,000億円、受動喫煙で3,300億円に上るとされ、介護費用などを含めた総コストは年間1兆8,000億円となります。世界ではタバコが原因の火事で30万人が死にその損失額は270億ドルとされます。煙草1本でドラム缶500本分の空気を汚染し、煙草葉の乾燥に必要な大量の薪のため樹木伐採に世界で毎年長野県2つ分の面積の森が消えているともいわれます。SDGsとしても大事ですね。
Q.どうしてタバコがなくならないの?
A.喫煙はニコチン依存症ですがその依存性は麻薬のヘロインやコカインと同等とされ欧米では「発ガン性の隠蔽、女性や青少年、発展途上国を標的にしたマーケティング、軽い煙草の嘘」などタバコ会社に懲罰的に高額な罰金が科せられています。国が被告席に着いているのは日本政府だけ。タバコの依存性や危険性が判明する前に関連産業が巨大な力を持ち禁止できない?だまされていることに早く気づくことを祈ります。
転載:月刊東洋療法351号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会
Dr.タコ 昭和40年生まれ、慶應義塾大学医学部卒。田んぼに囲まれたふるさとで診療する熱き内科医。